テレビディレクターのおすすめロケ弁・ケータリング

ロケ弁に詳しいことで有名なTVディレクター・演出家の市島晃生さんに、ADのみなさんに向けて、ロケ弁発注のコツについてのお話しをうかがいました。市島さんの熱のこもったロケ弁トークは、まさに仕事へのモチベーションに対するこだわりそのもの。ロケ弁はただお腹を満たすものだと思っている人がいたら、それは大きな間違いです。業界を熟知したベテランディレクターという立場だからこそ、ロケ弁をただ選ぶだけでなく、現場を最高のコンディションに持っていく演出方法を知っているのです。将来ディレクターを目指すADさんは、ぜひ一読することをおすすめします！

ADのみなさんに伝えたい、ロケ弁手配の極意とは？

著書に『絶対にうまい食べ方』（中経出版・2012年刊行）もあり、「ロケ弁の質だけは落とさない番組作りがモットー」という超ベテランTVディレクター・演出家の市島晃生さんに、「市島式」ロケ弁手配の極意をうかがいました！

市島晃生（いちじま・てるお）
フリーTVディレクター・演出家。グルメ、ダイエット番組を中心に「カノッサの屈辱」（ADとして参加）「料理の鉄人」「ウンナンのホントコ！」「マジック革命！セロ」「100キロ超級ダイエットあの日に帰りたい」「THE LAST AWARD」「DINING OUT」など人気番組の数々を担当。著書に「“おいしいご飯”を最後の一口まで”おいしく”食べきること」を解説した『絶対にうまい食べ方』（中経出版・2012年刊行）がある。

ロケ弁「教養編」

そもそも「ロケ弁」は、次の３種類に分けられます。
・ロケのとき持っていく弁当（いわゆるこれが本当の「ロケ弁」）
・スタジオで収録のときに食べる弁当（スタジオ弁当）
・撮影後、編集作業のときに食べる弁当（編集メシ)
すなわち、この3種の総称が「ロケ弁」であることを基礎教養として押さえておきましょう。

ちなみに昨今では制作予算縮小のあおりを受けて、「バレメシ」なるものが幅をきかせています（休憩解散にしてめいめい外に食べにいくご飯のこと）。番組制作費から弁当予算が出ない場合がこれになりますが、しかしそんなものは、僕的には言語道断！
僕はロケ弁の質だけは落とさない番組作りをモットーとしています。弁当の予算がない番組でも、技術さんとか、外の人間にメシは食べてもらわなければならない。そういうときは、「俺払うよ」くらい言っちゃいます。とにかく弁当には妥協したくない。
そして、「食べてもらう弁当の質を落とさないこと」。これが、もう一度言いますが、番組作りする上での僕の鉄則です。

ただし、質を落とさない。これは、高い弁当を買う、という意味ではありません。その日、誰がどんなものを食べたい気分なのかを読み当てられる「弁当ソムリエ」だけが、「質」の高い弁当をみんなに配ることができるのです。

「傾向と対策」を読みながらピタっとくる弁当を

まずスタッフは今日で徹夜何日目か、「残りの体力」はどの程度かを知る。その現場の、試験で言えば「出題傾向」を読んで対策を立てることです。しかも、できるADならたとえば、編集マンは連続では貼りつかず、日替わりで付いて「新陳代謝」するからそれほど疲れていない、だけど制作は連徹で疲れてくる……などの様子を見て、１つのお店から「ダメージが大きいスタッフ用」「それほどでもない用」の弁当、数種類を選び分ける技を駆使できるはずです。

また、予算が1人1,000円以内の場合、ボリュームが重要なスタッフのための大盛り200円予算を捻出するために、あまり食べない女子スタッフには800円の弁当を注文する、など「地ならし」をすることが重要。
それともうひとつ、年期の入ったADは、予算管理をしているプロデューサーの目をどうやってごまかすかを知っています。
具体的には、本当は来ていなかった作家さん（エアスタッフ）で頭数を足して、予算を底上げしたり……。

ちなみに、「毎日でもいい！」と言われるような鉄壁の弁当メニューをいくつか知っておくのもデキるADの基本です。そういうフトコロ刀を持っているADは出世します。
そもそも、何が食べたいですか？と聞いて「カレー」と返ってきたとき、さらに店の名前を3つくらいタタミかけられるくらいでなければ。何が食べたいか、と聞く時点で、どんな球が返ってきても3つくらいで打ち返せる実力こそを、蓄えるべきなのです。

ちなみにカレーを選択した場合、とくに編集メシでは、オーベルジーヌ@四谷（ジャガイモ付き欧風カレー）、PILIPILI（ピリピリ）@麻布（罰ゲームレベルの激辛カレー）、あとはカリーキャリー（CURRY CARRY）@青山の3店が業界常識上の定番でしょう。今回、僕は「ごちクル」を初めて知ったんですが、ここは「オーベルジーヌ」の宅配代行もしてるんですね。

寒いときには「容器の魔法」も使うべし

寒いところでのロケの場合、食事を弁当にするなら、現地で受け取るようにしておいたほうがいいかもしれないですね。あとは、現地でケータリングがお勧めです。
一番の隠し玉は、「温まる容器」に入った弁当を注文すること。駅弁ではよくある、ヒモを引っ張る使い捨てのアレ、最近ではデリバリーでも使われているのです。容器代の分、多少割高ですが、予算さえ許せば使いましょう。
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みんな走って、ディレクターになった。

身近で頼みやすいもの、よく知っているものばかりを注文していると、そのうち先輩から罵声が飛んできます。ひと手間かける努力を。突然、ディレクターが「東京駅で売ってる米沢の『牛肉どまん中弁当』が食べたい」などとワガママを言い出しても、「行きますか！」と二言返事で飛び出すことが大切です。駅弁を買いにわざわざ東京駅まで走ったという君の破天荒な行為が、スタッフのテンションを間違いなく上げるのです。
たとえば銀座に、いつも大行列ができているカウンター10席ちょっとの「ジャポネ」という店があります。大盛りのジャパニーズスパゲッティで有名です。僕にはなぜかこれがむしょうに食べたくなる瞬間があって、ADに「今から電話して！」と言って赤坂の局から銀座まで買いに走らせたりすることがあります。あとは、築地「鳥藤」の鶏肉弁当を買いに行かせたり。
繰り返しますが、こういうときに面倒くさがっちゃいけません。馬鹿なことをしているという喜びに浸りながら走りましょう。

バランスと調整の技。

たとえば「今週木曜日にスタジオで撮影がある。入るのは、タレント10人、スタッフ50人。食事は昼と夜に必要」とわかったら、まず考えるのは、昼を重くするか？夜を重くするか？のバランスです（たいてい、重いのは夜になりますが）。
そのうえで、大盛り、女子用などの「地ならし」後に注文。人数が多いこともあって、弁当ソムリエはけっこう緻密な知的労働と言えます。

ロケ弁用に人気のボリューム軽めの弁当

東京笑顔

砂町清月

「プラス200円」は黙ってると“エビに化ける”

タレントさん用の弁当を「スタッフ用にプラス200円」の予算で見繕ってください、と注文すると、たいていはありもののメニューに「エビ」がプラスされてくるんです。「謎」なエビトッピングがレギュラーにならないよう、「200円」の内容は具体的に指定しましょう。どうせ格差をつけるなら、魚の種類を変えてもらうほうがいい。たとえばスタッフ用が「紅鮭弁当」なら、タレント用は200円高い「銀だら弁当」にするとか。とくに芸歴の長いタレントさんは、バブルの頃によく出た銀だら弁当に最近めったにお目にかかれていないという忸怩（じくじ）たる思いがありますから、銀だらというだけで十分もてなし感が伝わると思います。
それと、体力勝負の技術や裏方さんと、美容重視の女優さんや年配の俳優さんたちに同じ弁当を食べてもらうのは酷。１つのお店に注文する場合もメニューを複数、選びます。
もし特典をつけてもらえる（特典を選べる）なら、プロデューサー目線だと「値引き」がうれしいですが、食べる側にとっては「大盛り・ボリューム増し」がうれしいのが当たり前。たとえばカラアゲ弁当だったら、カラアゲ5つのところを6つにして！が、スタッフ目線での希望でしょう。今回は誰を満足させたいのか考えて、特典を選ぶのも賢いADの基本。
早朝、深夜の需要も相当あるので最初は困ることもある。そういうときは、業界の「徒弟制度」を逆利用して先輩のチーフADに聞くのが一番です。

これが「テンションが上がるロケ弁」だ！

延々と編集作業していて、体感時刻が……うーん、31時～くらいになってきた、そういう徹夜明けに差し入れられる「朝マック」はテンションが上がりますよね。
それと夜中にテンションが上がるのは、月並みなおにぎりとかカップラーメンではなく、ずばり、僕は、「ケバブ」。夜中のケバブは、「それを誰かが六本木まで買いに行った」という事実もくるめて、テンションが上がりますよね。それと、炭水化物は眠くなるので、薄いピタパンに具だくさんなのもうれしいんです。
テイクアウトができるイートインの人気店には目をつけておいて、さらには「ここの店は、電話を前もってすると並ばなくていい」などの情報も前もって仕入れると待たずにゲットできます。
早朝の差し入れにコンビニのサンドイッチですませることが多いですが、あまり繰り返すと「手を抜いてるな」と先輩の逆鱗（ゲキリン）に触れることがあるのでこれにも注意。24時間営業の店をチェックしておいて、ちょっと気の利いたものを、編集メシなら徹夜明けの朝食として、早朝ロケならロケバスに届けて、現場のテンションを上げましょう。

早朝配達OKのおにぎり＆サンドイッチ専門店

おむすび亭

君は編集菓子の「3種の神器」に頼るか？

お菓子の差し入れのしかたひとつとっても、そのADがクリエイティブな人材かどうかわかります。
たとえば業界内では「編集中にはとにかく、ソフトサラダ、歌舞伎揚げ、ばかうけだろ！」という3種の神器伝説があります。これを先輩から教わったからといってバカ正直にその3つだけ出したら、僕だったら人として「置きに行って^※ないか！」と一喝しますね。「お前なりにクリエイティブな余地はないのか」と。悔しかったらたとえば「６月の憂鬱」というテーマで菓子買ってきてみろ！そして、その菓子を選んだ理由を、「物語にして語れ！」ついでに「出す順番」にもストーリーをしのばせてみろ！と喝を入れたりしています。
あと、期間限定フレーバーなどをちょいちょい入れるのも、旬感覚で、ちょっと「おおっ」となるので、効果的でしょう。袋入りのポテトチップスは作業中だと手が汚れて何かと面倒なのでNGですが、「プリングルズ」なら意外と怒られずにすむ、ということも覚えておけば吉。

※置きに行く：コントロールの悪い投手が、四球を恐れるあまり、思いきり腕を振らずにそっと投げることを指す野球解説用語。転じて、すべる事を恐れるあまり冒険をせずに定番のギャグや定石コメントに逃げる、すなわち思い切ったことをせずに「保守」の姿勢に小さくまとまること。

「元旦に頼んだロケ弁」が悲しかった理由

僕自身の失敗談としては――、もう20年も前のことですが、新人の頃、元旦の中継で先輩に「弁当注文しろ」と言われて、近くの店に注文したら届いたのが、「おせち料理」。全員空腹で、ガッツリ食べたいタイミングのところへ昆布巻きとか黒豆とか田作りとかをコツコツ食べることになりましたねえ……みんな腹が空いているはずなのにごっそり残ってしまい、辛かった。

――とにもかくにも、ADのみなさん。
「すべての道はロケ弁に通ず」という言葉があるように、ロケ弁選びは番組の質に直結しています。
「たかが弁当にイチイチうるせえなあ」などとは思わず、ロケ弁選びにも君のクリエイティビティをいかんなく発揮しましょう。そんなささいな努力が「センスのあるやつ」と認められるきっかけとなり、ディレクター昇格につながることもあるのです！